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分からないけどやってみる

分からないけどやってみる

 先日の参議院選挙の後NHKのラジオで、ある高校を取材して新たに選挙権を得た高校3年生二人に感想を求めたところ、投票に行った女子高生は「今まで選挙というと自分とは関係のないものと思ってきたけれど、投票に行って関心が高まった。」と話し、投票に行かなかった女子高生は「政治のことは難しくて分からない。もっと分かりやすく教えてくれたら、投票に行っていたと思う。」と話しました。どちらももっともな意見だと思いますが、私は後者の女子高生の「分かりやすく教えてくれたら」が気にかかります。
 近頃は「分かりやすい」とか「分かる」ということをやたらと目指しているように感じます。もちろん難しいことを分かりやすく教えられたらすばらしいと思うし、分からないより分かるほうがストレスが少なくて済むとは思います。しかし、世の中がみんな「分かりやすさ」を志向し始めて「3分間で分かる」とか「サルでも分かる」とか、宣伝文句に踊らされてお手軽な解説書ばかりに飛びつくようになりはしないか少々心配です。(いえ、かく言う私もその手の本を何冊も持っていますが・・・。)
 大きな心配は二つです。一つ目は、「分かりやすい」解説を入り口にして、さらに深いところ、難しい問題を考えるようになるのならいいのですが、入り口のところだけで何もかも「分かったつもり」になってしまって、それ以上考えが深まらないのではないかという心配。もう一つは「分かりやすいこと」が良いこと、あるいは「分かりやすくて」当たり前という人が大半になってしまって、「分かりにくいこと」を敬遠したり、「分かりにくい」のは悪いことだと思うようになるのではないかという心配です。
 先の女子高生のことに話を戻せば「分かりやすく教えてくれたら投票するけれど、教えてくれないんだったら投票しない。」という考えで良いのかということです。それは世の中を善意に解釈し過ぎているように思います。例えば、ものすごく頭のいい人が普通の人には理解できないような世の中のしくみを作って、「こんな難しいこと知らなくても大丈夫ですよ。これは専門家に任せて、あなたたちは自分の分かる範囲のことをやっといてくれたら、後は私たちがやっておきますから。」なんてことを言って、自分たちの都合のよいようにどんどん世の中のしくみを変えていくという心配は本当にないのかということです。分からないこと、難しいことでも、それが自分に必要なことだったら、自分から学ぼうとする、あるいは分からないままにとりあえずやってみるということも大切だと私は思います。
 私の教室は入塾試験のようなことはしませんので、いわゆる勉強のよくできる子どももできない子どももいます。そして、できる子にもできない子にも易しいことも難しいことも両方やってもらいます。例えば、書写のときは小学校2年生の子どもにもプリントの文章をそのまま写すように言います。難しい漢字はホワイトボードに大きく書いたり、必要に応じて筆順を記したりしますが、基本は何も教えません。とにかく見たまま書いてみるように伝えます。時間内に数行しか写せない子もいます。私は筆をとめずに一所懸命書いたのなら、それで構わないと言います。こうしているうちに大部分の子たちは習っていない漢字だろうが、少々長い文章だろうが写すようになります。こう聞くと「書写なんて書いてあるまま写せばいいんだから、そんなに難しいことじゃない。」と思う人がいるかも知れませんが、低学年の子どもや国語の苦手な子どもにとっては、書いてあることをそのまま写すだけでもけっこうな大変な作業なのです。
 一部の子どもたちは「習っていないこと」をやらされること、ましてテストされることに強い抵抗感を示します。しかし、私は「まず思ったとおりにやってごらん。」とか「習ってないから、これから勉強するんだよ。」と言って背中を押します。多くの子どもたちはやはり自分のできる学習をやって、○がたくさんついたり、良い点数がとれることを喜びますが、私はできないことを承知でむずかしい学習もぶつけます。できないこと、難しいことに慣れてほしいと思うのです。
 考えてみれば人生分からないことだらけです。子育てだって、そうではないでしょうか? でも、分からないからといって放棄できないことが世の中にはたくさんあります。分からないなりにやってみて、試行錯誤しながら、よりよい方法を探っていくしかないことがあると私は考えています。子どもたちにはそういう経験をたくさん積んでもらいたいのです。いずれやってくる「分からないこと」に対峙できる力をつけてもらうために。
 
 

2016-07-30 08:24:19

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