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うれしい訪問(2017年3月31日)

うれしい訪問(2017年3月31日)

 昨年開塾10周年をむかえた当教室では、これまで200名近い生徒が卒塾していきました。けれども学校と違って全ての生徒が卒業や進学といった節目で卒塾していったわけではなく、途中で卒塾していった生徒がたくさんいます。教室に生徒をむかえいれるにあたっての私の方針は「去る者は追わず、来たる者は拒まず」ではありますが、「その後どうしているのだろう?」と気になっている生徒が何人もいることも事実です。
 そうした生徒の一人のA君が、先日不意にお母様と一緒に教室を訪ねてくれました。もっとも私は彼が名乗るまでA君であることに気づきませんでした。今は大学生になっているA君が当教室を辞めたのは小学5年生のときで、顔立ちがすっかり大人になっていたからです。
 彼は小学校3年生のときに入塾しましたが、5年生になっても「くつつき言葉」と呼ばれる「は・を・へ」を「わ・お・え」と書く癖が抜けきらず、ご両親はそのことを大変気にしておられました。私は、「ぼくわ 学校え 行く。」のような文の間違いを正せと言えばきちんと正せるし、漢字や仮名遣いの間違いはあるけれど、とても豊かな感性をもったお子さんで、俳句などもとても良いものを作るので、もう少し様子を見ていただきたいと申し上げました。しかし、3年近くも国語の塾へ通わせていて成果が出ないのなら塾へ通わせるよりものびのびと遊ばせてやりたいとのお父様のお考えで塾を辞めることになりました。辞めるときに、これまでお父様に一度も口ごたえなどしたことのない彼が、「国語塾だけは続けさせてほしい」と言ったのだとお母様からうかがったときは、本当に胸が痛みました。目に見える学力だけに汲々として、未来への種蒔きをないがしろにしないように、たとえ今すぐに成果があがらなくても、この先の学びを考えたときの糧になるようにということを第一に考えて指導をしていますが、成果が目に見えないことは子ども自身にとっても、保護者の方にとってもつらいことですから、それを理由に教室を去っていくのは私の力不足としか言いようがありません。しかし、その後どうなったのだろうということはずっと気になっていました。
 「Eです。お手紙ありがとうございました」手紙というのは、昨年開塾10周年を機会に、塾で学んでくださったご家庭(生徒・保護者)に送った粗品と簡単なメッセージのことです。お母様によると、直接出向いてお礼を伝えたいと思ったが、東京にいるのでなかなか帰ってくる機会がなく今日になってしまったとのこと。いまは日本大学の歯学部で学んでいるということでした。
 「もう、くっつきの『を』間違えない?」「さすがに今は間違えません」これを聞いて私は心から胸を撫で下ろしました。あるいは彼は、当教室を辞めたあと他塾に通って適切な指導を受け、仮名遣いがなおったのかも知れません。しかし、あのとき目に見える成果をあげようと躍起にならなくて私はよかったと思っています。そうしていたとしたら、それは子どものためを思ってというよりも、保護者の方の意向に沿うように、教室を辞めないようにするための指導になってしまっただろうと思うからです。もちろん当教室に節目まで在籍してくれて、成績向上なり、合格なりしてくれたらこんなにありがたいことはありませんが、大切なのは子ども自身が未来への道筋をつかむことです。A君は、歯学部に入学して未来への道筋をつかんだのですから、それを聞けただけで充分幸せです。
 もし彼が和歌山に帰ってきて歯科医をすることになったら、今度は私が彼に歯を診てもらいたいと思います。彼の「わ」を「は」になおせなかった私ではありますが・・・。
 

2017-03-31 11:03:13

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